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Watabera Miscellaneous Notes

人生やめてません

ハサミ男 感想

物語の核心は濁しましたが、中盤までのあらすじや話のおおまかな流れはネタバレしています注意してください。

 

 

 

ハサミ男

 

 そのタイトルで棚から手に取り、


「美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇的殺人犯」


 あらすじを読んで購入を決めた。

 誤解しないで欲しいが、勿論僕にそんなサイコパスな趣味はない。実習でカエルやネズミを殺すのでさえ躊躇うピュアな若者なのだ。ましてや美少女を殺してしまうなんてとんでもない。
 ただちょっとばかし義務教育が過ぎても中二病が治らなかっただけである。
 だからその血が滲みそうなタイトルに色めいた魅力を感じて、ついついレジに持って行ってしまった。

 さぁ今ハサミ男を読み終えた訳だが、全くもって完敗で感服させられてしまった。
 まるで隅々まで趣向が凝らされた美しい細工を鑑賞させてもらったような気分だ。

 物語は序盤から飛ばしてくる。
 少女を相手取る猟奇的殺人犯がなんと主人公、にも関わらず今回の事件の第一発見者となってしまう。その殺人はなんと自分の犯行の手口そっくりに行われていた!
 事件現場に残されたKのイニシャルのライター。
 さらには主人公の多重人格と思しき医者の存在。もしかして本当に彼は存在するのではないか、いや寧ろ彼の人格の方が殺人を行ったのではないか。色々と勘ぐってしまう。
 作者はこの大風呂敷を如何に畳むのかとページをめくり続けた。

 中盤は順調、ある意味(ミステリとして)平凡に少しずつ事件の解明が進んでいく。
 清楚だと思われた被害者女性は実は様々な男を関係を持っており、しかもその動機は他人の感情を試す為だった! などと分かりやすい"目眩し"を投げられてもふむふむと納得していた。
 そして警察側の主人公磯辺たちは遺体の発見者であるヒダカを追うことになる。マルサイ堀之内さんの推理も冴え渡り、本人も知らず知らずの間に距離を詰められる。
 そのまま捕まってしまうのか?いやでも主人公も賢いぞ、そう簡単には終わるまい。
 なんて思っていた訳である。

 それからクライマックスのあの一幕である。
 レールの最高点まで登っていたこの物語は、あのドアチャイムを皮切りに猛スピードノンストップで大暴露へと駆け抜けていくのである。
 矢継ぎ早に明かされる真相、披露される推理と答え合せ、来客に次ぐ来客、そして事態はまさかの収束を迎えようとする。
 医師の皮肉な一言で全てが終わるまで僕は頭の情報を処理しきれないでいた。

 ネタバラシ。事が収まり、この話がどういう結末になるのか見えてくる。
 そして読者が知らなかったものが、予想外のところに隠してあった裏がここでようやく作者から明かされる。しかもかなりご丁寧に。
 この時の僕の頭の中を文字化したら「そうなのか」「なるほどなぁ」ぐらいしか言っていなかったと思う。
 緻密に、それでいて万全な作者の計画がページの裏側に広がっていたのをその時にやっと気づいたのだ。洞察力のなさから僕はころころと作者の手の上で勝手に転がっていた。
 尤も観察眼が足りない方がこういったように読者として最大限物語を楽しめるので、それはそれでアリなのかもしれない。と思ったりもした。

 エンディング。
 クライマックスでこの小説は予想外の所に着陸した。予想を裏切るのがミステリ作家の仕事で、またそうなるのが当然のクオリティだとしても個人的には好きな結末だ。
 またホラーの手法のようなラストシーンが、ハサミ男というタイトルに惹かれた時の気持ちを思い出させてくれた。
 最後まで僕の視線を掴んで離さない作品だった。

 さて、この小説はまず真ハサミ男が偽ハサミ男の被害者を最初に発見してから第一章が始まる。冷静に考えてそれは途轍もない確率である。
 こういうミステリの為の偶然や過去、人間関係はあり得ないと言ってしまえばあり得ない。
 だからそれをフワフワした状態で提示されるとフィクションらしさが目に見えて興醒めしてしまう。リアリティの無さゆえに物語に入り込めないのだ。
 けれどこの作品のように、偶然の足回りや登場人物の人間関係を具体的で地に足の着いた作り方をされると、可能性さえあれば起こり得るのかと不思議に納得(錯覚?)出来てしまう。ちょうど作中で誰かが言っていたように。
 更には納得するだけでなく、もはやある種の名人芸だ、なんてこれは作り込まれているのだろうと感銘を受けるまである。

 こういう作品はもう一度本を手に取って、初見では気付けなかった作者の"細工"を確かめてそのさりげなさに驚くのもまた楽しい。二回目を読もうと思える作品は間違いなく良作だと思う。

 あと、螢という麻耶雄嵩さんの小説もミステリ作家の職人芸を堪能出来るのでオススメしたい。二度楽しめる、美味しくてお得な本だ。

 本の内容を理解するのに頭を使って知恵熱が出てきたのでここら辺で終わりにしたい。
 読んで下さった方、ありがとうございました。

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

 

 

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

 

 

 

watabera.hatenablog.com

 

 


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