slowly

Watabera Miscellaneous Notes

人生やめてません

モダンプリンセスはネットで王子様を探す

 

変なAVを観た。

 

大学も部活もない休日。まとめサイトを流し読みし、ひたすらに時間を潰していた。気になる記事は別タブで開き、一個ずつ読んでいく。気がついたら、タブのなかに開いた覚えのない動画サイトが紛れている。一瞬驚いたが、なんのことはない。タブを開いて出てきたのは、某有名ポルノ動画サイトだった。知らぬ間に動画ページの直接リンクを踏んでしまったらしい。AVらしきページが開かれていた。

 

"yumemi"、動画のタイトルはそれだけだった。タグもついていない。このサイトの動画タイトルや沢山のって"Japanese"とか"amature"とか色々つくんじゃないか。疑問。ムラムラした訳でもなかったが、何かのご縁と思って再生ボタンをクリックする。

 

動画が始まった。固定カメラで誰もいない部屋が映されている。どうやらビジネスホテルの一室のようだ。ガチャンと音がして画面の左奥から人が入ってきた。男と女が1人ずつ。男が女を案内している。女をカメラ正面の椅子に座らせ、男は画面から消えた。

 

「今日はありがとう。まずは色々と聞いてもいいかな」

 

「はい」

 

インタビューが始まった。どうやら彼女が主演女優らしい。話の進み方からして、よくあるAVに違いなかった。

 

「名前を教えてもらってもいいかな」

 

「ゆめみ、です」

 

ゆめみ、そう名乗った彼女は、化粧っ気が薄かった。あまりAV女優には見えない。ボブカットで、長い前髪が眼鏡にかかっている。地味な印象は受けるが、くっきりした二重と目立たないが綺麗な鼻筋は、それなりに容姿が整った印象を与えた。

 

「歳はいくつ?」

 

「23です」

 

彼女はインタビュアーの質問にポツリ、ポツリと答えていった。挙動不審ではあったが、この状況を嫌がっているように見えなかった。役ではなく、元より彼女は控えめな性格なのだろうと想像がついた。地味な子が実は……。そういう展開も嫌いではない。俺はインタビューを見続けた。

 

「趣味、とかってあるの?」

 

「趣味。白馬の王子様を探しています」

 

「白馬の王子様?」

 

「私を迎えに来てくれる人を探してるんです。ネットを使ってですけど」

 

「へぇー、ネットで。Twitterとか?」

 

「まぁ、色々ですね」

 

彼女の唐突な発言に笑ってしまった。白馬の王子様を探すというメルヘンな目的の割に、手段はネットという現実的なものを選んでいる辺りも面白い。演技じゃなくて本気だったなら、随分汚れたディズニープリンセスだ。

 

「じゃあ、どういう人が好みなの」

 

「私のこと大事にしてくれる人がいいです」

 

そんな男をネット見つけるのは至難の技だろう。そう思ってしまう。しかし、王子様について語る彼女はいたって本気だった。そして、子どものような笑顔をしていた。寝る前におとぎ話を読んでもらった女の子。そんなイメージだった。彼女はゆっくりとインタビューに答えていった。

 

男がカメラを持ったらしく、画面が揺れ始めた。彼女の顔がアップになる。そこからは普通のAVと変わらなかった。愛撫から前戯が始まって、ベッドに移動して彼女は服を脱がされた。そして最後に眼鏡が外された後、本番が始まった。眼鏡がなくなった彼女の顔は、どことなく不安に見えた。男の腕が、彼女の首に回った。

 

男が腰を打ちつける旅に彼女は大声を上げた。彼女は泣くように喘いだ。彼女の目に涙はなかった。しかし、彼女の喘ぎ声は、親から置いてけぼりの大泣きするこどもに違いなかった。彼女は泣き続けた。

 

俺の視線はディスプレイに固定されていた。パンツもズボンも脱がなかった。不思議とそういう気分にはならなかった。美術館で絵画を見るように彼女が犯されるのを見ていた。やがて本番が終わった。彼女は向けられたカメラに向かって、幼く微笑んでいた。

 

動画が止まった。俺はタブを閉じようとした。しかし、タブが勝手に別のページに飛んでいた。待機中になる。どうせ広告だろうとマウスを動かしたとき、ページが更新された。

 

真っ白いページの中央に青いリンク。

 

『yumemi@gmail.com

 

その下に、

 

『連絡待ってます。』

 

俺は苦笑いした。白馬の王子様を探すために、ここまで大がかりなことをするなんて。ネットで王子様を探すとは、つまりこういうことだったのだ。でも、

 

「……期待には添えないかな」

 

俺は今度こそページを閉じた。彼女が白馬の王子様を見つけることを少しだけ祈った。