ハッカ飴が嫌いじゃなくなった。
ハッカ飴が嫌いだった。
飯屋のレジに置かれている、無料のハッカ飴。白地に青いストライプの包み。以前なら、それらを手にとることはなかった。まったく欲しくなかった。
小学生のとき、だれか大人からもらったハッカ飴を、一度だけ舐めた。
飴ではない味が、舌から鼻へと突き抜けた。嫌な味だった。小さな飴玉に裏切られたような気がした。
それ以来、ハッカ飴を舐めたことはなかった。
今日、焼き肉屋で昼飯を食べた。長財布を弄りながら向かったレジには、フルーツ飴に紛れてハッカ飴があった。
白い包みを見て、僕はハッカ飴の味を想像した。どういうわけだか、意外と悪くなさそうな気がした。
驚いた。10数年来、ハッカ飴は僕の嫌いなものリストから出ていった試しがなかったのだ。
受けとったレシートをそのままカゴに捨て、僕はハッカ飴の包みを破いた。口に入れてみる。
やっぱり、悪くない。嫌いじゃない。
舌から伝わる清涼感はけっして昔のように不快ではなかった。
ハッカ飴が嫌いじゃなくなった。
僕は、飴玉と一緒に、その事実をゆっくり味わった。なぜだか、じんわりうれしかった。
同じような毎日を送って、似たような失敗ばかり繰り返しても、僕はすこしずつ変わっていたのだ。
飴玉ひとつで、僕の日々が肯定されたような気がした。
ハッカ飴は口のなかで溶けてしまった。
僕はまた、日々に向き合わないといけない。
けれど、それはすこしだけ違った景色に見えた。
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