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Watabera Miscellaneous Notes

人生やめてません

【夏の歌】現代短歌にハマってみませんか。新鋭短歌集4選【恋の歌】

 

 最近、短歌にハマった。

 

 短歌というと、古そう、堅苦しそうなど、現代人には楽しくなさそうなコンテンツだと思われがちなだ。友人にも、趣味として短歌にハマっている、と伝えると、エッと驚かれる。

 

 しかし、短歌は決して昔の文化ではない。むしろ、日々に忙殺され、じっくりと芸術を楽しむ時間もない我々現代人にこそ、短歌がぴったりフィットしてくるのだ。

 

 という訳で、今日は短歌について紹介したい。

 

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短歌ってそもそも?ルールは?

 

 さて、短歌の定義とは、和歌の一形式で五・七・五・七・七の五句体の歌体のことだ。

 

 今回は、一般に短歌と呼ばれるようになった近代、現代短歌のなかでも、平成以降の作品ついて取りあげていきたいと思う。

 

 また、とくに新鋭短歌と呼ばれるシリーズについて、個人的な名作を紹介したい。

 

 

現代短歌の有名作者と言えばあの人

 

 短歌に対して、読んでみても難解で共感できそうにない、というイメージを持っている人も多いと思う。

 

 そういう人はまず、俵万智さんの「サラダ記念日」という短歌集を読んでみてほしい。きっとそのイメージがひっくり返る。

 

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

(サラダ記念日/俵万智

  

 教科書にも載っている、この有名な短歌は、みなさんご存じのことと思う。

 

 この歌が載せられている、俵万智さんの第一歌集が、「サラダ記念日」だ。おそらく近所の古本屋にある。なければamazonの中古品でよいので、是非一度手に入れて目を通してみてほしい。

 

 「サラダ記念日」では、俵万智さんの恋愛模様などが、決して壮大ではない、日常的な目線で描かれている。

 

 それゆえ、我々は歌に詠まれている景色や付随する感情を、カンタンに思い浮かべることができるのだ。きっと一読したみなさんは、共感できる歌の多さに驚くだろう。

 

 「サラダ記念日」では基本、俵万智さんの個人的な出来事しか歌われていない。

 

 しかし、個人的な歌であるからこそ、彼女が抱いている感情は私たちが個人的な出来事に抱く感情と通じるところがある。そして、私たちは彼女の歌に共感してしまう。

 

 平成以降の短歌というのは、私たちに身近な感情を共有する芸術なのだ(と思ってる)。

 

 

 

現代短歌の最先端、新鋭短歌。夏の歌、恋の歌。個人的名作例4選

 

 そこで短歌に興味が湧いた方におススメしたいのが、書肆侃侃房という出版社から出ている、新鋭短歌シリーズだ。

 

 新鋭短歌シリーズは、様々な若い現代歌人たちの第一歌集を出版しているシリーズである。

 

 新鋭短歌では、現代歌人の多様な感性から生み出される素晴らしい歌がたくさん載っている。若い歌人たちがそれぞれの言葉で、三十一文字のなかに、それぞれの世界(景色や感情)を作りだしている。

 

 すでに(20178月現在)、シリーズは34まで到達している。いくつか買ってお気に入りの歌人や歌を探すのもまた楽しい。

 

 せっかくなので、新鋭短歌集のなかから僕のお気に入りの歌集と歌をいくつか紹介して、僕なりの解説をしたい。

 

1.夜にあやまってくれ』(鈴木晴香)

 

自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏

 

 まさに青春といった歌。自転車の荷台に横向きで二人乗りしていたから、街の右側だけしか視界に入っていなかった、と気づく歌である。

 

 自転車のスピード感、二人乗りで眺める街の景色、それを思い返すときの感情、読んだ瞬間すべてがワッと脳内に流れ込んでくる。

 

 感性を一気に刺激してくれる素晴らしい歌だ。

 

呼吸することさえ恋をすることの副作用だとしたらどうする

 

 思わず息が詰まってしまうほど鮮烈な歌である。

 

 作者のなかで、恋が自らの生存意義にまで影響を及ぼしていることを自覚する歌だ。この歌のなかでは、呼吸を『副作用』と仮定することで、恋が生死よりも先じている自分の心象を表現している。

 

 にしても、「呼吸が恋の副作用」だなんて発想に感服するばかりだ。

 

 

 『夜にあやまってくれ』は、上のように青春だったりアダルトだったりする恋が沢山歌われている。その美しい発想力に驚きつつも、同時にその底の純粋な気持ちに共感できる。女性におすすめの歌集だ。

 

 

2. 『春戦争』(陣崎草子)

 

未来とはレモン氷の向こうなるおまえの八重歯に映った花火

 

 夏のお祭りにて、レモン味のかき氷を食べる『おまえ』、その白い八重歯に打ち上げ花火が反射している。作者はふと、そこに未来を感じた。頭に思い浮かぶのはとてもシンプルな情景だが、それでいてとても美しい歌だ。

 

 レモン氷と反射する花火という美しい情景に、作者と『おまえ』の関係性を反映させている。作者と『おまえ』の今後はきっと明るいものなのだろう。

 

 

 作者が絵を描いていた人らしく、『春戦争』は絵画的な美しさのある歌が多い。生活の場面場面を切り取って、透明感のある言葉で描いている。穏やかな心になれる歌集だ。

 

 

3.『青を泳ぐ。』(杉谷麻衣)

 

聴覚を放し飼いするひるやすみ文学少女を装いながら

 

 クラスの会話に入れないので、本を読んで文学少女を気取ってはいるが、どうしても皆の会話内容が気になってしまう。そんな歌だ。

 

 これは非常に共感する人も多いのではないか。自分の世界を構築してクラスの輪から離れようという気持ちと、やっぱりクラスの輪のなかに近づきたい背反する気持ちが、リアリティのある情景によって描かれている。

 

 僕にも同じような経験がある。

 

 

 『青を泳ぐ。』では、日常のなかの風景を身近な言葉で幻想的に描いた歌がたくさん載っている。自分たちが生きている世界が本当は美しいことを教えてくれる歌集だ。

 

 

4.『硝子のボレット』(田丸まひる)

 

縫いつけてもらいたくって脱ぎ捨てる あなたではない あなたでもない

 

 自分の心の隙間を『縫いつけてもらいたくって』、洋服を『脱ぎ捨てる』。けれど、いくら身体を交えても、どの人も完璧には自分の欠落を埋めてくれない。それなのに、次の人ならば、と新たな相手を探してしまう。

 

 自分を探すために、性行為を通して他人の身体を探っている。しかし、誰の身体を探っても心は満たされない、という歌だ。

 

 『縫いつけて』と『脱ぎ捨てる』の対比、『あなたではない あなたでもない』で作者が同じ行為を繰り返している表現が、技巧を感じさせる。 

 

くちびるはデザートだから最後まで残す遊びをしてみませんか

 

 『くちびる』つまりキスを、あえて一連の行為の最後までとっておきませんか、という歌である。

 

 性愛に対して経験豊富な作者だからこその余裕がにじみ出ている。また、そこに生じる官能的な悦びを、実際の肉体的行為とは裏腹に、かわいらしく上品に歌っている。これもまたグッとくる。

 

 

 『硝子のボレット』は、上のような性愛に関する歌が多い。人間の本能のドロドロとした決して美しくはない部分を甘くきれいな言葉に昇華させているのが、この作者のすごいところである。 

 

 

ぜひ購入を

 

 どうだろうか、紹介したなかに気になった歌はあっただろうか。

 

 もしひとつでもあれば、是非その歌集を買ってみてほしい。他にもお気に入りの歌が見つかるはずだ。

 

 そして、お気に入りの歌がいくつか見つかれば、他の新鋭和歌シリーズにも挑戦してみるのもよい。あなたの心を掴む歌集はきっと他にもあるはずだ。

 

 

趣味としての短歌のおすすめポイント

 

 時間のない現代人だからこそ短歌をおススメできるポイントもある。

 

 単純に1句が短いという点だ。

 

 小説などでは切り上げるタイミングがなかなかなく、本を読むのをやめるとなると、どうしてもキリが悪い部分であきらめることになりがちだ。

 

 しかし、歌集では、ひとつひとつがたった三十一文字なので、切り上げたいタイミングで切り上げることができる。読んでいて息切れすることもない。

 

 また、短歌にはもうひとつの楽しみ方がある。そう、自ら歌を詠むことだ。

 

これも、小説やエッセイと比べて非常にハードルが低いというメリットがある。

 

 もちろん素晴らしい歌を生み出すのには時間や技術が必要だ。しかし、見た景色や自分の感情を、自分の言葉で歌うのは比較的難しくない。それでいて大きな充実感をあなたにもたらしてくれる。

 

 インターネットには短歌投稿サイトもあり、自分の歌を他人に見てもらうことも簡単だ。

 

 最近では個人主催の短歌会などもあるようで、手軽に始められる新たな趣味として、短歌を詠むことはピッタリなのではないだろうか。

 

 

現代短歌を趣味に

 

 僕は、短歌の魅力は「たった三十一文字で圧倒的な情景と感情を共感させる」ことにあると思っている。

 

 言い方は悪いが、受信する側としてこんなにもコストパフォーマンスがいい芸術は他にないと思う。

 

 あなたも、心を揺らすお気に入りの一首を見つけて、ぜひ短歌にハマってほしい。

 

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