医者の仕事は難しい【SS】
「先生、いいんですか。仕事お願いしても。この病院に来たばかりで忙しいんじゃありませんか」
「いえ、ここでできることなんて仕事しかありませんので。是非お願いします」
「分かりました。くれぐれも無理はなさらないでくださいね」
「えぇ、重々承知しております」
「わざわざ取りに来てもらってすみません」
「いえ、構いませんよ。先生の仕事が早くて助かります」
「はは、この病院がいいんです。ものすごく仕事が進みます。環境に恵まれています」
「それはこちらとしても嬉しいです」
「先生、無理しすぎじゃありませんか。きちんと寝られてますか」
「大丈夫ですよ。きちんと睡眠はとっています」
「そうですか、ならいいのですが……。無理だけはやめてくださいね」
「しませんよ、大丈夫です。無理なんてしたら怒られちゃいますからね」
「はは、そうですね」
「先生、休みをとってください」
「なに言ってるんですか……大丈夫ですよ。僕はこの仕事が生きがいなんです。誰かの役に立ちたい。それもできないなんて生きてる意味がない……」
「ですが…………この間もここの先生方に怒られたんでしょう。仕事を回さないでくれ、と私も言われましたよ」
「そんな。少しでいいんです!!お願いです、高遠さん。仕事をください……。じゃなきゃもう……」
「分かりましたよ、どうせするなと言っても勝手にするんでしょう。ただし、ほんの少ししか出せません。物足りないかもしれませんが、我慢してください」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「……」
「先生、ダメです。もう絶対に仕事したらダメです。勝手にするのもダメです。寿命を縮めるような真似はやめてください」
「…………」
「これは持っていきます。しばらく休んだらまた仕事すればいいですから。今はともかく休んでください」
「…………てください」
「……え」
「返してくださいよ!!!!」
「ちょっと、身体動かさないで!」
「返してください!!返してください!!僕の生きる意味まで奪う気ですか!?なんの権利があって!!なんの権利があって!!」
「ダメはものはダメなんです!!とにかく、また来ますから!!それまで休んでください!!」
「高遠さん……高遠さん!!そんな……僕は……僕は」
〜〜〜〜〜
「西5のセンセイ、亡くなったらしいですよ」
「センセイ……あぁ、あの作家の先生か。あの人、有名な人だったみたいだね」
「らしいですね。僕は本読まないんですが、結構売れてる人って聞きました」
「ここに入院してからも原稿書いてたんでしょ」
「二内の先生が困ってました。いくら言っても寝ずに原稿書くのをやめてくれない。あれじゃ自ら死に歩み寄ってようなもんだって」
「自分の残った時間を思うと仕事せずにはいられなかったのかも」
「自宅に返したほうが良いんじゃないかってカンファで言ってた頃亡くなったみたいで」
「それは……」
「ちょうどその前に、二内の先生に頼まれた担当の方が仕事用のパソコンを回収したらしくて、そしたらもう一気に。書く仕事が命を削ってたと同時に最後の砦だったんでしょう」
「どうするのが正解だったんだろうか。難しいね、この仕事は」
「そうですね」