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Watabera Miscellaneous Notes

人生やめてません

【門脇麦】映画 「愛の渦」 感想と考察【池松壮亮】

 

 愛の渦、という映画を観ました。

 

 


映画「愛の渦」予告編

 

 Twitterで存在を知って、エロそうだなって思ってたところ、TSUTAYAで見つけたので借りました。

 

 まぁ、エロかったんですけど。

 

 それ以上に色々いいな、と思った映画だったので、紹介したいと思います。

 

あらすじ

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閑静な住宅街にあるマンションの一室、普段なら関わらないであろう個性的な男女が集まっていた。皆一様に、バスタオル1枚の姿で気まずそうに座っている。ここは六本木の裏風俗。彼らは皆、乱交パーティのために集まったのだった。

 

 池松壮亮演じる主人公のニートや、門脇麦演じるヒロインの内気な女子大生、ガラの悪いフリーター、眼鏡のサラリーマン、童貞でデブの作業員、OL、保母さん、ピアスのやせぎす女。これらの男女が集った、乱交パーティの一夜を描いた映画です。

 

 むき出しの性欲、暴かれる劣等感やコンプレックス、完全な理解という幻想。生々しい人間の本質をとことん味わうことができます。

 

 そして……

 

 123分中、洋服を着ているシーンはわずか18分30秒。

 

 当然R18+、これは観ない訳にはいかんでしょう。

 

 という訳で、以下ネタバレ込みの感想です。

 

服は脱いでも心は脱げない

 全員乱交目的で集まっているので、さっさとやり始めるのかと思いきや、そうはなりません。一同黙りこくって、固まってしまいます。

 

 お互いに、目的は分かっています。しかし、そうすんなりとは本能に素直にはなれないようです。自意識を捨てきれずに、探り合う時間が続きます。無難な会話を切り出してみたり、急に話しかけられて無視してみたり。現実ではどうなんでしょうね?

 

 僕はこの探り合う時間が非常によかったです。もどかしさ、女性陣のためらい、男性陣の焦り。映像の空気管を、肌で感じられました。

 

 男たちの女性へのすり寄り方がまた気持ち悪いんです。セックスはしたい。でも、拒否されるのは怖い。そういう意識が、表情や声や体動で表現されてます。それがまた生々しくてよいです。俳優さんってすごい。

 

 女性陣が内輪で会話しはじめたあと、童貞がその会話を真似して、一番優しそうなサラリーマンに話しかけるシーンもよかったです。話しかけ方が分からず必死に他人の会話を真似する童貞。自分たちの会話を反復されて困惑する女性陣。なにアイツ気持ち悪い、という視線。漂う気まずい空気。自分のコンプレックスをガンガンに刺激されて最高でした。

 

 とはいえ、乱交パーティなので、少し緊張の糸が解れたら、あとはゴールまで一瞬です。仲良くなったフリーターとOL、サラリーマンと保母さんはさっさとおっぱじめます。響き渡る喘ぎ声。デブ童貞は勇気を出して、ピアスの女に頼み込むと、なんとOK。黙り続けていた主人公と女子大生も、怯えながら会話を始め、互いに相手になることを決めました。

 

 

解放

 で次のシーンが門脇麦の濡れ場なんですが、これがすごかったです。最大の見せ場のひとつです。

 

 先ほどまでの内気さとはかけ離れ、セックス中の彼女は頭を揺らしながら叫ぶようによがりました。それはもはや泣き声のようにも聞こえました。普段、自分の内側に閉じこもっている彼女が、性行為を通して自らを解放させる映像は圧巻でした。なんの制限も受けない、本当に純粋な姿の彼女がそこにはいました(果たして本当にそうなのかが後に問題になるのですが)。

 

 

エゴとコンプレックス

 このままスムーズに進むかと思われた乱交パーティでしたが、そう上手くいきません。皆が裸になれば、むき出しになるのは性欲だけではなかったのです。

 

 フリーターが女子大生(2回連続でニートとやった)を次の相手に無理に指名したところから徐々に亀裂が走り、最終的には、エゴで互いのコンプレックスを抉るような罵り合いになりました。デブは童貞を根拠になじられ、仲がよかったOLと保母さんも険悪に。

 

 そんな雰囲気の会場に、ひと組のカップルがやってきます。

 

セックスによる相互理解という幻想

 これまたおデブな彼女と、若干ガラの悪い彼氏。彼らはスワッピング目的のようでした。

 

 デブ彼女が相手を探し始めますが、フリーターとサラリーマンは目を逸らします。その結果、ニートがデブ彼女の相手をすることになりました。

 

 そして、彼氏のほうも女子大生を相手にしてベッドへと向かいます。

 

 デブ彼女に半ば犯されるようになりながら、隣で愛撫される女子大生を見つめるニート。見つめ返す女子大生。互いに別の人と性行為を行いながら、視線を交わす二人には確実に性欲以外の感情が芽生えていました。

 

 結局、カップルの彼氏のほうが、夢中でセックスするデブ彼女になぜかキレて、2組の性行為は中断されました。

 

 そのあと、ニートと女子大生は3回目のセックスをします。

 

本当の自分

 そして朝になり、乱交パーティは解散になります。ルールとして、ストーカーを防ぐために、女性陣が帰ってから男性陣が帰ることになっていました。この時間が終わってしまえば、名前も知らない他人たちとは永遠にお別れです。しかし、ひょんなことから、ニートと女子大生の携帯に互いの番号が残ってしまいます。

 

 1時間後、女子大生にカフェに呼び出されたニート。互いに本名を教えあい、ニートは彼女の名前と番号を登録しようとします。

 

 しかし、彼女は、「あの場所の私は本当の私ではないから、その番号を消してほしい。そのためにあなたをここに呼んだ」と告げます。

 

 唖然とするニート、理解しあえたと思っていた彼女に拒絶されたのだから当然でしょう。渋るも仕方なく番号を消去します。

 

 背を向けた女子大生にニートは言います。「僕はあの場所の自分が本当の自分だと思っている」

 

 それに彼女は、「いいですね」と返して去っていきました。

 

 「あの場所の自分が本当の自分だと思っている」ニートは、あの場所で理解しあえた彼女との関係を本物で揺るぎないものだと思いました。

 

 しかし。女子大生は、「あの場所での私は本当の自分じゃない」と考えています。よって、セックス中に通じ合えても、本当には理解しあえていない、と彼との関係を断ってしまったのでした。

 

 二人は結局一人のまま、それぞれの日常に戻っていきました。

 

 

 まとめ

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 えぐくて、せつなくて、たまに笑えて、なおかつ実用性まである。いい映画でした。

 

 人間の本質が、様々な角度から明かされていく。それがとてもよかったです。

 

 一つ難点なのは、人に勧めたくても、そう簡単には勧めにくいとこですかね笑

 

 

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字が汚い奴は、気も利かない

 

「あなたって、字が汚いのね」

 

 彼女が、頭のなかの文章を諳んじるのやめて、そう呟いた。

 

 彼女の目線は、僕の手元に注がれていた。原稿用紙には、僕の多動的な字で、さっき彼女の頭から溢れた言葉が羅列してあった。改めて見ると、それはたしかにお世辞にも上手い字とは言いがたかった。

 

「あぁ……うん。このパラダイムでは」

 

「インクミミズ職人が評価される世の中に期待するのね、馬鹿げてるわ」

 

「もういいから、はやく続きを頼むよ」

 

「…………止まっちゃった」

 

 彼女は、左の人差し指で自分の頭を小突いた。コンコン。そして、にっこりと口角を歪めた。

 

 どうやら、本当にもう出てこないらしい。自分の字が汚かったせいで、僕は貴重な欠片を手に入れ損ねた。今この時間の欠片は、今この時間にしか存在しないのだ。僕は永遠にそれを失った。

 

「初めて自分の字の汚さを恨むよ」

 

「初めて?」

 

「そうとも」

 

「あなたって野蛮な人なのね」

 

「どこが野蛮だ、社会の枠の外で自活する君のほうがよっぽど野蛮だよ」

 

 彼女は、僕の反論を無視して続けた。彼女の目線は、窓の景色のそのまた向こうにあった。

 

「他人に意味を伝えようとするのに、使うのがそのインクミミズでしょ。不躾すぎると思わない?」

 

「いやいや、他人に書類を書くなら丁寧に字を書くよ。もちろん、少しぎごちない字にはなるけどさ」

 

「上手く書けないって分かってるのに、変わろうとしないのね」

 

「そう言われたら、そうなるけども」

 

「ほら、野蛮で傲慢だわ!他人が不便を被るとしても改善しないのでしょう!あなたの地球にはあなたしか住んでないのかしらね」

 

 彼女の黒いスカートのレースが揺れた。

 

「おいおい、言いすぎだろ。それは拡大解釈だ」

 

「本当にそうかしら。あなたの言葉ってよくエゴが透けて見えてるわよ」

 

「どういうことだ」

 

 彼女は嘲るように見下すように、それでいて自分の正しさを疑っていない目をしていた。

 

「そのままの意味よ。そもそも、あなた自分の字読めるの?」

 

「……そりゃたまには読めないこともあるさ」

 

「ふふふ、最高。身勝手は最終的に自分の身を滅ぼすってこと!よく勉強になるわ」

 

 デスクが揺れた。僕が叩いたのだった。

 

「さっきから何様のつもりだ!誰が君の言葉を金に換えてると思ってるんだ!」

 

 カップが倒れてコーヒーがこぼれていた。僕はそれを放っておいた。彼女は見やりもしなかった。

 

「その金に換わる言葉、誰があなたに渡してあげてるのかしら」

 

「……」

 

「ごめんなさい、言いすぎたわ」

 

「……」

 

「そろそろ、帰っていいかしら。今日は多分もう何も出てこないから」

 

「あぁ」

 

 僕が目をあげたとき、すでに彼女は背を向けていた。鞄ひとつ持たない彼女は、その事実以上に身軽に見えた。

 

 僕は、なにか言おうと口を開こうとしたが、すぐに閉じた。今まさに口からエゴで出来たミミズが飛び出そうとしていた。僕はそれを必死にとめた。

 

 しかし、吐しゃ物が出口を求めて口腔をいっぱいにするように、エゴミミズは口中に広がって蠢いて、唇からにゅるりと這いずり出た。

 

「さっきのこと、僕は別に気にしてないから」

 

「………………また来てくれ、って?」

 

 なんて嫌な女なんだろうか。

 

 

ってことが最近あったので、字は綺麗に書こうと思います。

 

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オタク男子が女子に告白して成功するための会話7選!!

「君が好きだ、付き合ってくれ」

「気持ちは受けとっておくわ、でも、ごめんなさい」

「……そうか、わかった。でも最期にひとつ教えてほしいんだ。僕のどこがダメだったんだろうか?」

「そういう風に、いつも自分の出来ばかり考えてるとこ、かしらね」

 

 

「私、いつも、さみしい」

「僕はそんな思いさせない。君が好きだ、付き合って欲しい」

「ごめんなさい」

「……どうして」

「私なんか好くような人には、私のさみしさは埋められないの」

 

 

「愛してる」

「言葉の形だけ整えて、自分の曖昧な気持ちを補強して誤魔化さないでよ。あなたの為の誰かになる気はないわ」

 

「君を一生幸せにする」

「誰かを幸せにする自分になろうとしないで。私を、幸せにしようとして」

 

 

「ねぇ」

「うん」

「大好き」

「……あのさ、私の承認を買うために、君の承認を押し売りするのはやめてよ」

 

 

「好きって言ったらどうする?」

「私の答えがないと告げられない程度の好意ですり寄ってくるなんて、馬鹿するのも大概にしてほしい、と思いますかね」

 

 

「好きです、付き合ってください」

「ごめんなさい……あなたやさしいから」

「……やさしかったら、ダメなんですか」

「私を傷つける勇気のない人は、私を傷つけてまで本当に向き合ってはくれないもの」

 

 

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ハッカ飴が嫌いじゃなくなった。


ハッカ飴が嫌いだった。

 

飯屋のレジに置かれている、無料のハッカ飴。白地に青いストライプの包み。以前なら、それらを手にとることはなかった。まったく欲しくなかった。

 

小学生のとき、だれか大人からもらったハッカ飴を、一度だけ舐めた。
飴ではない味が、舌から鼻へと突き抜けた。嫌な味だった。小さな飴玉に裏切られたような気がした。
それ以来、ハッカ飴を舐めたことはなかった。

 


今日、焼き肉屋で昼飯を食べた。長財布を弄りながら向かったレジには、フルーツ飴に紛れてハッカ飴があった。

白い包みを見て、僕はハッカ飴の味を想像した。どういうわけだか、意外と悪くなさそうな気がした。
驚いた。10数年来、ハッカ飴は僕の嫌いなものリストから出ていった試しがなかったのだ。
受けとったレシートをそのままカゴに捨て、僕はハッカ飴の包みを破いた。口に入れてみる。

やっぱり、悪くない。嫌いじゃない。

舌から伝わる清涼感はけっして昔のように不快ではなかった。

 

ハッカ飴が嫌いじゃなくなった。

 

僕は、飴玉と一緒に、その事実をゆっくり味わった。なぜだか、じんわりうれしかった。
同じような毎日を送って、似たような失敗ばかり繰り返しても、僕はすこしずつ変わっていたのだ。

飴玉ひとつで、僕の日々が肯定されたような気がした。

 

ハッカ飴は口のなかで溶けてしまった。
僕はまた、日々に向き合わないといけない。
けれど、それはすこしだけ違った景色に見えた。

 

 

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なにが寂しくて、いつも飲み会の最期まで、あなたは、私は

 

心の欠落を誰かに埋めて欲しくて、飲み会にいつまでもいるのでしょう?

 

自分でその穴埋めもしないくせに、誰か他人にやらせようなんて烏滸がましいね。

 

だからあなたの自尊心の欠落は、いつまでも埋まらないのでしょう。

 

自分への承認欲しさに他人に承認を与えるひとを探して、そしてその人に甘えるのは止した方がいい。

 

それは上手くいこうが、いかまいがあなたになにかをもたらすことはない。

 

だから、酔いでプリミティブな状態に近い人から承認を得ようとするのはやめなさい。

 

愚か。あまりにも愚か。

 

けれども。

 

 

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食堂の冷水器、水だけ入れるか、氷も入れるか

 

 

冷水器について、悩みがある。

 

 

冷水器、水派?氷水派?

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冷水器とは、食堂やうどん屋にある、客がセルフでコップに水を汲む、あの機械である。
あの機械には、大体3つのボタンと、それによって設定されるモードがある。「氷」「氷水」「水」である。どれかのボタンを選んだ状態で給水部分のバーを押したら、コップに水やら氷やらが入る。そういう仕掛けである。
一部、ボタンを押しただけで水が汲めるタイプのやつもある。まぁ、それは今回の話には関係ない。

 僕が水を組もうとするとき、あの機械は大体「氷水」モードに設定されている。大体どころか、十中九九九ぐらいで「氷水」である。つまり、冷水機では氷水を汲むのが世の中のメジャーらしい。

では僕はというと、「水」派である。
氷がなくても十分に水は冷たいし、氷の分だけすぐ飲める水の量が減るし、氷水は冷たすぎて歯に沁みる。
だから、僕は毎回必ずボタンを「水」にしてから、コップに水を注いでいる。
まぁこれは個人の自由だ。水を注ごうと、氷水に決めていようと、どうでもいい。

 

 

「氷水」に直すべき??

 

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 悩みは、このあとである。

 僕がコップに水を注いだので、冷水機のモードは、「水」が選択されてある。
しかし、僕の前に「氷水」が選択されてあったように、どうやら世の中では、「氷水」が選択された状態が普通らしい。

そこでだ。
果たして僕は、「氷水」のボタンを押してから冷水器の前を去るべきなのだろうか?
これで毎回、給水のたびに悩んでいる。

どういうことか、以下に説明する。
 世間のメジャーが「氷水」である。しかし、僕が冷水器を使ったことあと、モードは「水」になっている。
つまり、その次の人は、僕のせいで、給水するのに「氷水」のボタンを押すという手間が増えてしまう。
そう思うと、「氷水」に直す義務が僕にはあるように思える。

しかし、「氷水」も「水」も、はてには「氷」でさえも、平等に提示された選択肢の一部である。差異は支持者の数だけであり、それ以外に差は存在しない。
よって、「氷水」支持者も、「水」支持者も、「氷」支持者も元々は平等な存在である。
なので、別に僕は「氷水」勢に気を使ってわボタンを押し直す必要がないようにも考えられる

 

 

「氷水」と「水」、マジョリティとマイノリティ

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この僕の悩みは、かなりしょうもない。
誰に話しても一笑に付されること間違いなしだ。好きにすればいいじゃん、と。
しかし、この問題を、「マジョリティ社会で、マイノリティとして生きていくことの難しさ」という拡大解釈をしてみる。
すると、この悩みは、いろいろな大きな問題と本質を同じにしているのだ。

 

 

マイノリティは二重苦を背負わなければならないのか?

 

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マイノリティはマジョリティに配慮して生活していかなければならないのか?
 「水」ボタン支持者は、食物アレルギーもちの人は、発達障害者は、あとLGBTの人たちなどは、マジョリティに気を使って生きていかなければならないのか。その選択や素質で他人に迷惑をかけてはいないのにもかかわらず、だ。
 世の中はマジョリティが生きやすいように設定されてある。
それは別に仕方ない。現実的な問題として、そうじゃないと社会の数字が回らない。

マイノリティは基本的にその不便を受容して生きている。
そのうえで、マイノリティとして生活するこが、マジョリティに迷惑をかける、もしくは不快にさせるなら、
マイノリティは、それに注意しながら生きていかなければならないのか?
そこまでする義務が、マイノリティには必要なのか?


 例えば、LGBTの人が自分の本来の性質を隠して生活を送るのは、決してその人にとってプラスではないはずだ。
かといって、カミングアウトしたら、それに対して「気持ち悪い」と考える人物がいるのも、今の社会においては事実だ。
では、そういう人たちに気を使って、カミングアウトせずに生活していく義務があるのだろうか。そこまでマジョリティ側に気を使うべきなのだろうか。

 他人への「思いやり」、もちろんそれをマジョリティに対する配慮を行う理理由にしてもよいかもしれない。
しかし、それだけで、マイノリティ側が、さらなる負担を強いられない理由になるだろうか。いや、そんなことはないはずだ。


マイノリティは、普段からマジョリティ社会で生きる負担を背負っている。
だったら、マイノリティとして堂々と生きる権利があってもよいのではないか。

 僕は、「氷水」ボタンを押しなおさないといけないのだろうか。分からないままだ。

 

 

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ホラーSS小説投稿「はじめから」

 

1

 

 その頃の私は、念願の一人暮らしを手に入れ、そろそろ半年といったところでした。


 それまでは、実家から大学まで自転車で通っていたので、それが毎日の運動になっていました。しかし、大学の近くに下宿を構えて取ると、当然運動量は減り、両親の目もないので食事も含めた生活リズムもぼろぼろになってしまいました。


 おかげで、身体に余分な肉がついてしまい、気づけば顔もお腹もすこし丸くなっていました。友達たちと海で遊ぶ予定があるのに、これでは恥ずかしくて行けません。


いえ、決して身体のラインが出るような水着を着るつもりはなかったのです。それでもやはり、元より太った状態で水着姿を晒すというのは、女子たる私にとって、耐えがたいものでした。


 そこで、私はダイエットを敢行しました。食事制限はもちろんのこと、大学から帰宅するときには、自室のあるマンションの5階まで階段で歩くことにしました。たかだか5階といえども、荷物を持って歩いて登っていくとなると、一段ずつ登れば、結構な運動になるのです。初日の疲労感に未来の成果を実感した私は、絶対に続けてやせてやると意気込みました。


 やがて、私はこの決意のせいで恐ろしい目にあうのですが、そんなことは当時の私には分かるはずもありませんでした。


 この話は、ダイエット開始1週間後だったあの日から始まります。

 

 

2

 

 なにごとに関しても三日坊主を成し遂げていきた私が、1週間も耐えてダイエットを続けているのは、驚異的な事実でした。その事実に自信をつけられた私は、今日もエレベーターを無視して、横の扉から階段へと向かいました。


 私のマンションの階段は、室内型ではなく、壁はお腹のあたりまでで、低層階にはフェンスがついています。なので、外の景色が見渡せるようになっていました。


 その日、友達と遅くまで談笑していた結果、帰ってくると時刻は午後8時ごろになってしまいました。階段は暗く、マンション周囲の街灯を頼りに、私は登っていきました。


 ちょうど3階を過ぎたところでした。


 パチッ。突然、景色が白く鮮明になりました。エッ、と間抜けな声を出した私でしたが、すぐに状況に気づきました。階段の照明が点いたのです。


 このマンションでは、階段の照明はスイッチ式になっています。誰かが押さないと夜になってもつきません。そのことを、そもそも照明の存在を、私はすっかり忘れていたのです。スイッチは各階の踊り場にひとつずつ設置されており、どの階でスイッチを押しても全ての階の照明が点き、また全ての階の照明が消えるのでした。


 ということは、マンション住人の誰かが、今1階から階段に入ってスイッチを押したのでしょう。私は、「照明も点けずに階段を登っていた人」と思われるのが嫌で、少し駆け足でマンション最上階である5階まで辿りつきました。階段から5階の廊下に入るときは、スイッチを押した人のことを考えて、照明は消しませんでした。


 それを気遣う余裕はあったのに、下からのドアの音や足音がなかったことには、まったく気づけませんでした。

 

3


 階段に入った私は、数日前の反省を活かし、早速スイッチを押して照明を点けました。蛍光灯のやたらに白い光が広がって、ずいぶんと周囲が見えやすくなりました。


 私は登りながら、蛍光灯に照らされた階段をぼんやりと眺めていました。ふと、一人暮らしを始めた頃を思い出しました。


 一人暮らしの出費を渋っていた両親へお願いにお願いを重ねてやっと許可を取りました。そのぶんあまり高い家賃の下宿は、選べませんでした。安い家賃となると、どうしても古い建物に絞られます。一人娘ということも考慮して、最終的に選ばれたのが、オートロックでセキュリティもしっかりしているが、いかんせん古いこのマンションでした。


 それを念頭に置くと、どうしても古さが目立ちます。壁の塗装は所々剥げていたし、踊り場の四隅のどこかには必ずクモの巣が張っていました。砂やホコリに混じって、小さい虫の死骸が散らばっていて、たまにカナブンぐらいの大きさの虫も落ちていました。


 私は若干ゲンナリしながらも、実家暮らし時代よりはどれだけよくなったか、と自分を慰めました。実家が大学から絶妙な距離にあったせいで、自転車で学校まで通えてしまい、毎日しんどい思いをしました。

 

 体力的な問題だけでなく、その距離や親の監視のせいで、友達の集まりに参加できなかったりしました。一応、私も華の女子大生として、友人たちとの交流は欠かせない部分がありました。実家暮らしによる制限は、周囲と比較しても、なかなか厳しいもので、両親に対して苛立つこともあったのです。


 それらを思えば、こうやって一人暮らしの自由を謳歌できている時点でなんと幸福なことでしょう。私は、そうやって私を納得させました。


 遅くなって疲れていたので時間はかかりましたが、やがて5階につきました。私はドアを開け、照明を消そうと、指をドア横のスイッチへと近づけました。そのとき、


 パチン。


 目の前が暗転しました。私は視界を奪われ、立ち尽くしました。ドタン。私の手から離れたドアが閉まる音がして、えっなに?私の口から、言葉が漏れました。


 ひとつ呼吸をしてから、私は照明が消えたのだ、と理解しました。まだ混乱しつつも、私はスイッチがあるであろう場所を指で押しました。


 パチン。


 もう一度同じ音がなって、視界が戻りました。照明が点きました。ドアが閉まっている以外、視界はなにも変わっていませんでした。


 そして、少し落ち着いてから、私はにわかに恐ろしくなりました。


 スイッチを押して電気が点いたということは、蛍光灯自体が切れたのではありません。現に今も蛍光灯は、絶え間なく光り続けています。つまり、誰かがスイッチを押して、照明を消したのです。


 では、誰がスイッチを押したのでしょうか?


 誰かが階段から廊下に出てスイッチを押した、のでしょうか。だとすると、その人は、私が5階に辿りついたときに、それより下で、階から階への移動を済ませたことになります。もちろん、それ自体は別におかしくありません。誰か階段にいるのは分かっていたうえで、習慣でスイッチを押してしまったのかもしれません。


 しかし、私はその人の立てる物音を一切聞いていないのです。


 よほどその人がこっそりとしない限り、この古マンションの階段で、他に人がいることに気付かないはずがないのです。なにがやましくてそんなに音を立てずにいなければならなかったのでしょうか。


 そして、なにより、タイミングです。照明が消えたのは、私がスイッチに指をのばしたその瞬間だったのです。余程の偶然でもない限り、私を見ていないとあり得ないタイミングでした。そして、階段で、私の行動が確認できる場所にはスイッチは設置されていません。


 そういえば、3日前も同じように突然スイッチが押された、と思い出しました。そのときもスイッチを押した人の物音を聞いていないことも。


 私はさらに恐ろしくなって、急いで自室に駆け込みました。そして、廊下と部屋の電気を点けました。肩で息をしてから、呼吸をお腹に移して、少し落ち着きました。


 私はとりあえず荷物を放り投げて、ベッドに倒れこみました。


 きっと偶然、偶然。シーツとの小さな空間に、何度もそう呟きました。偶然、悪い偶然に当たってしまっただけ。私は自分に言い聞かせ続けました。


 その一方で、やはりあの階段が恐ろしく、もう二度と階段を使うまいと、自分の言葉と矛盾した決意を固めていました。

 

 

4


 結局、ダイエット継続記録は、その日以来途絶えてしまいました。階段ではなく、外に出てランニングでもしようかと思いました。しかし、下手に階段を使うかもしれない機会を増やすのも嫌でやめました。

 

 運動をやめてしまうと、中途半端になったダイエットになんだかやる気を失ってしまい、食事制限もやめてしまいました。そうやって、私は贅肉を削ぐことを諦めました。   

 

 それよりも、もう二度と"悪い偶然"に遭遇したくなかったのです。


 たしか、それから1週間後ぐらいだったと思います。学部の同級生から、地元から届く桃が余るだろうから貰ってほしい、と頼まれました。高級な果物としてなかなか食べられなかった桃をもらえるとなって、私は二つ返事で引き受けました。

 

 今思えば、その判断を後悔しています。譲ってもらおうとしなければ、あんな目に遭わなくて済んだのですから。

 

 

 

5


 数日後の10時ごろ、同級生から連絡がきました。遅くに申し訳ないが今から桃を持っていってもよいか、ということでした。私は、大丈夫!と気前のいい返事をして待っていました。


 しばらくして、部屋のチャイムが鳴りました。モニターを見ると件の同級生でした。1階のオートロックの前から私の部屋へ、インターホンがきたのでした。


「遅くにごめん!!桃持ってきたから、開けてもらってもいい?」


 自分が譲ってもらうのに、同級生に5階まで上がってもらうのが、私は急に申し訳なくなりました。自分が1階まで降りていくことにしました。


「いや私が降りるよ!!すぐ行くからちょっと待ってて!!」


 急いで靴を履き、玄関を開けました。私の部屋は、エレベーターを出てすぐ右手にあるので、玄関を開けた際に階数表示が確認できます。そして、そのときの表示は、ちょうど都合よく5階になっていました。私がエレベーターのボタンを押そうとした、そのときでした。


 ヴィン、と硬い音がしてエレベーターが下へと降りていきました。横のモニターが非情にも下矢印を映しています。おそらくエレベーターは1階まで降りることでしょう。


 私は焦りました。同級生にすぐ降りると言った手前、のんびりエレベーターを待っているのは、悪い気がしました。がしかし、エレベーターを使わないとなると、階段で1階まで降りなければなりません。それはそれで、またあの出来事が思い出され、二の足を踏むのでした。


 結局私は、しばし立ち止まってから、階段のドアを開けました。たかだか偶然に怯えていた自分が急に馬鹿馬鹿しくなったのです。こんなことで立ち止まっていてもしょうがない、とそのときは思われました。


 しかし、やはりドアを開けてみると、あのときのことが恐ろしくなりました。照明を点けずに早足で階段を駆け下り始めました。街灯や他のマンションの照明のおかげで、注意しておけばスイッチを押さなくてもこけることはなさそうでした。


 足下を見やりながら駆け足で降りていくと、徐々に胃を締めつけるような恐怖が私のなかに渦巻きました。私は階段を選んだことを後悔し始めました。抑え込んでいただけで、あの出来事は私の心に結構な傷痕を残していたのでした。


 壁の暗い陰からなにか恐ろしいものが出てこないか、ありもしない恐怖が頭のなかに湧きました。私は現実で頭を振って、その恐怖をどこかに吹き飛ばそうとしました。しかし、それは粘っこく私の脳に張りついていました。


 私は何も考えないよう、何も考えないよう、ただ足下だけをみて降りていきました。


 そして、ようやく1階に辿りつきました。途中なにか起こったわけでもないのに、私の心臓は急な運動以上の拍動をしていました。とりあえず何事もなかったことに安心し、ドアを開けて階段を出ました。


 オートロックの自動ドアの向こうに同級生が見えます。部活帰りとみえて、大学名の入ったジャージを着ていました。友人の姿は、私をずっと落ち着けました。


 私は自動ドアを開けて挨拶とお礼を言い、紙袋に入った桃を受け取りました。


「ナオコちゃん住んでるの5階だったよね。階段で降りてきたんだ」


「うん、玄関出たときにちょうどエレベーターが降りちゃって……」


「エレベーター?」


「うん」


「あ、そうなんだ」


 彼女は不思議そうな顔をしていました。つられて私もつい首を傾げました。


「……?」


「いや、エレベーター降りてきてなかったから」


「えっ」


「……ていうか!遅くにごめんね。しかも、わざわざ降りてきてくれて。ありがとね!!」


 彼女は急に会話を切り上げて、私に手を振り、帰っていきました。


 私はなにか引っかかるものを感じながら、部屋に戻ろうとして後ろを振り返りました。エレベーター横のモニターには、「5」と出ていました。


 5?彼女は、エレベーターは降りてこなかったと言います。エレベーターは元より5階から動いてなかったのでしょうか。


 いいえ、たしかに、私の目の前でエレベーターは5階から降りていったのです。アレは見間違いではありません。


 つまり、エレベーターは5階から2階のどこかを往復したことになります。しかし、それはあまり現実的ではない。また、"悪い偶然"に出会ってしまってのではないか。そう私のなかで不安がむくりと起き上がってきました。


 一回階段でなにも起こらなかったからか、そのときの私は急に心細くなりました。また、なにかがおかしいのです。かと言って階段を使うのも嫌です。私はとりあえずエレベーターのボタンを押しました。


 少し遠いところで鈍い音がして、モニターに下矢印が表示されました。そしてモニターが5から4に変わり、やがて1に変わり、明るい箱が私の前に降りてきました。


 私は早く部屋に戻りたい一心で、エレベーターに乗り込み、5の数字を押しました。2度、3度と押しているあいだに扉は閉まりました。エレベーター特有のにおいが鼻に満ちました。


 私はひたすらフェルト地のような床を見つめていました。早く5階へ、早く5階へと着いて欲しかったのです。そして、身体にかかる力が消えるとともに、扉が開きました。
私は降りませんでした。


 目の前の景色は、自室の前とそう変わりません。しかし、モニターの表示は、「3」でした。ここは私がボタンを押した階ではありません。そして、目の前にもこの階にエレベーターを呼んだらしい人も見えません。


 また、またです。また"悪い偶然"なのです。


 偶然にも、私が押してもいない、誰もいない3階にエレベーターが止まったのです。最初に階段の照明がついたのも3階だったのを思い出しました。


「んんん!!」


 私は必死になって、「閉」を連打しました。カタカタカタカタ。手の甲が痺れても、それでも私は右手の人差し指を意識を集中させました。カタカタカタカタ。そうでもしないと、叫んでしまいそうでした。


 ようやくエレベーターの扉が閉まりきったとき、5分もかかったように私には思えました。ブゥン、私の身体はまた少しずつ上階へと運ばれました。


 きっと10秒もかからなかったのでしょう。にもかかわらず、やはり、5階で扉が開くまでの時間は、私には果てしなく長く、そして恐ろしい時間に思えました。いつ何時、正体の知れないなにかがワッと私を捕らえてしまうのではないか、と思いました。私は人生のなかで最大の恐怖と混乱に陥っていました。


 5階でエレベーターが開くと、私はすぐに駆け出し、鍵を開けたままにしていた玄関から自室に飛び込みました。そして、せっかくの桃を袋ごと投げ出すと、ベッドで布団を被りました。


 視界になにかが映るのが恐ろしく、布団のなかに閉じこもり、目をぴたりとつぶっていました。頭のなかで先ほどの出来事の"あり得なさ"を検証してしまうと、もう私の頭はどうにかなりそうでした。ただひたすらに、アーと、アーー!!と頭のなかで叫んでいました。

 

 

6


 いつの間に眠たのか、気づけば朝の7時でした。ベッドから身を起こしたときに、昨日の出来事が去来しかけたので、私はまた頭のなかでアッ!!と叫びました。
気づけば、喉が渇いていました。


 キッチンで水を3杯飲みました。朝の光、太陽の光というものが、私を幾分落ちつかせてくれました。


 昨日のことを検証しようとすると、やはり胸のなかに恐怖の種が投げ込ました。けれど、少なくとも昨晩よりは"現実的"なものの考え方ができるようになりました。


 やはり、ここ一連の出来事は、偶然ではないか、と思えました。機械の故障、それはすべての出来事を擦りつけることが可能な原因でした。それ以外ない、私はそう考えることにしました。


 それ以上は、もうなにかを考えたくはなかったのです。しかし、また同じことが起こってはかないません。私は管理会社に苦情を言うことにしました。本当に故障があったのなら直してくれることでしょう。


 私はクローゼットの奥から、入居時の資料を取り出しました。ほとんど読んでいなかったそのファイルの、2ページ目に管理会社の電話番号が書いてありました。


 管理会社に電話をかけようとして、私の手は止まりました。資料によると、10時からしか会社は開いていないようなのでした。


 しかし、電話をかけないままに、自室から出て大学へ向かう気にはなりませんでした。少なくとも自分のなかでは、電話をかけないと、あの一連の出来事が故障ではなかったように思えるのでした。


 10時までテレビをぼんやりと眺めて過ごしました。そして、デジタルの表示が「10:00」になったその瞬間に、携帯に表示させていた番号へ電話をかけました。


 5コール半で音がきれ、疲れた声のおじさんが電話に出ました。私は、マンション名と部屋番号、自分の名前を言ったあと、階段の照明とエレベーターの調子が悪いことを告げました。早く直してほしいとも伝えました。そして、そのまま私は電話を切ろうとしました。

 

 けれど、おじさんの声の感触が予想と違ったので、私は切りそびれました。


「えっ、エレベーターも調子悪いの!?参ったなぁ……」


 おじさんは階段の照明についてなにか知っているようでした。エレベーター"も"、ということは前から階段の照明の調子はおかしかったのでしょう。やはり一連の出来事は、故障によるものだったのです。私は単純にそう思いました。


「やっぱり故障だったんですね……」


「うん、もう3週間前から、蛍光灯が全部切れてたんだよね、あそこの階段」


「え」


「いやー申し訳ない、申し訳ない。階段の電気点かないと不便だよね。ごめんね、早く直しておきますよ」


「…………」


 3週間前から蛍光灯が切れていた。では、あの日点いていた照明はいったいなんだったのでしょう。なにが光っていたのでしょう。

 

 私は、なにを照明だと思っていたのでしょうか。

 

 

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